自閉症スペクトラム(ASD)の子どもの治療とは?支援方法についてのまとめ
子どもが自閉症スペクトラム(ASD)と診断された場合、どのような治療や支援方法があるのでしょうか。
ASDの子どもに対する支援方法の種類について分かりやすく解説していきます。
自閉症スペクトラム(ASD)は治療で治る?
自閉症スペクトラム(ASD)は後天的な病気ではないので、医学的に治す方法は残念ながらまだありません。
ASDの子どもにとっての治療とは、障害によって起こりうる不便さや困難さを、様々な工夫やセラピーによって少なくしていくことです。
早期から適切な支援やセラピーを行うことにより、子どものことばやコミュニケーションの能力を育んだり、生きやすくするお手伝いをすることができます!
自閉症スペクトラム(ASD)の子どもへの様々な支援方法
現在、自閉症スペクトラム(ASD)の子どもに対する療育や発達支援として様々な方法が実践されています。
しかし、ASDへの支援方法は療育者や支援者の考え方によって様々で、統一されていないのが現状です。
ここでは、代表的な支援方法について紹介していきます。
TEACCH
TEACCHとはアメリカのノースカロライナ州で実践されてきた、自閉症スペクトラム(ASD)の人を支援する包括的なプログラムです。
ASDの人が社会の中で有意義に暮らし自分らしく生きていくことを目指しています。
TEACCHでは「構造化」という支援方法が有名です。
構造化は、「ASDの人の多くが視覚優位で、耳で聞くより目で見る方が情報を理解しやすい」という特徴に基づいて生活しやすくするための工夫のことです。
例えば、1日の流れを絵カードや写真を用いて分かりやすく呈示したりします。
ABA(応用行動分析)
ABAとは、オペラント条件付けという学習理論の一つに基づいたアプローチ方法です。
子どもの行動を分析し、直後に子どもが好きな強化子を与えたり、あるいは反応しないことにより、良い行動を増やして不適切な行動を減らしていきます。
ABAと言ってもいくつかのセラピー手法があり、中でもDTTとPRTが有名です。
DTTは、主に机上課題でことばや行動をテンポよく促していきます。
PRTは、おもちゃなどのある自然な環境で遊びの中でことばや適切な行動を増やしていきます。
RDI(対人関係発達指導法)
RDI(Relationship Development Intervention)とは、自閉症スペクトラム(ASD)の症状である「社会性の障害」という部分に再注目し、対人関係や社会性の障害を克服することを目指すアプローチ方法です。
まずは子どもの社会的相互作用についての発達レベルを詳しく評価し、必要なプログラムを組みます。
ASDの子どもが他者とのコミュニケーションを自発的に楽しみ、うまくあそび、関わり方が上手になるように様々な活動や指導を行います。
また、ASDの子どものみでなく、その家族を対象とした指導も行い、家庭での日常生活をベースとして発達を支援します。
DIR/フロアタイム
※DIR:Developmentally-based Individual difference Relationship-basid Intervention
DIRとは、グリーンスパン博士によって開発された発達障害の子どもを支援するプログラムです。
発達段階による個人差や関係性の指標に基づいた支援を行います。感情、運動、言語、感覚、認知など子どもの発達を総合的に評価します。
大人が子どもの目線に合わせて関わるFloortimeの考え方が有名です。Floortimeでは、大人が子どものリードに従い、子どもの自主性を尊重して促しながら、自発的な活動を行えるよう目指します。
SCERTSモデル
サーツモデルとは、ASDや発達障害のある子どもに対する新しい支援方法です。
社会コミュニケーション、情動調整、交流型支援の3つの領域があり、それぞれの領域ごとに段階が定められています。
発達障害のある子どもだけではなく、支援者や専門家、家族もその支援の対象となっているのが特徴です。
サーツモデルは日本ではまだ広がっていませんが、現在注目されている支援モデルの一つです。
番外編
包括的なプログラムではありませんが、次のような指導を組み合わせて行うことがあります。
PECS(絵カード交換式コミュニケーション)
PECSとは、絵カード交換式コミュニケーションと呼ばれるコミュニケーション支援の方法です。
具体的には、まだ発語がなかったり、ことばを使ってうまくコミュニケーションできない子どもに対して、まず絵カードを相手に手渡すことにより自分の要求を伝えることを教えます。
絵カードを手渡すことにより要求がかなえば、その行動は増えていきます。PECSの効果として、ずっと絵カードでのみコミュニケーションをするわけではなく、PECSを用いていると徐々に発語が伴うようになり、ことばでやりとりできるようになる場合も多いです。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)
「ソーシャルスキル」とは、人が社会や集団生活のなかで他者とうまく関わりながら生きていくためのスキルのことを言います。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは、子どもたちが将来学校や社会生活のなかでうまく行動することができるように、社会や対人関係のルールを覚えていくトレーニングです。
本来のSSTはロールプレイにて行われていることが多いです。
感覚統合療法
感覚統合とは、人に備わった7つの感覚を、脳が整理して取り入れる能力のことです。
7つの感覚とは、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚・平衡感覚・固有覚のことを指します。
※固有覚とは、「筋肉」や「関節」などの動きや力の入れ具合など皮膚より深部の感覚のことです。
これらたくさんの感覚を、私たちは周囲の環境から常に受け取り続けているのです。これらの感覚の整理を脳がうまくできないとどうなるでしょうか。
例えば「聴覚」を例にすると、聴覚過敏と言って聞こえに敏感すぎてしまったり、逆に聴力は悪くないのに声かけに反応できない、ことばを聞き取れない、といった状態になったりします。
ASDのお子さまは、この感覚統合がうまくいっていない場合も多く、感覚統合療法が行われることがあります。
どの方法が最も有効なのでしょうか?
自閉症スペクトラム(ASD)の子どもの支援と言っても、今回ご紹介したように非常にたくさんの方法があります。
しかし、ASDの子どもだからこの方法が有効!と言い切るのは難しいです。
ASDと診断されたとしても、すべての子どもが同じ特徴を持っているわけではありません。
実際にこれまで多くのASDと診断された子どもたちと接してきましたが、それぞれの子どもに個性があり、似ている部分はあっても、まったく同じ子どもは居ませんでした。
個性がそれぞれ違うということは、適切な支援方法もそれぞれの個性に合わせて選択する必要があるということです。
また、いろいろな文献を見てみても、一つの支援方法が他の方法より優れているとエビデンスを持って言えるものはありません。
KIZUKIでのASDの子どもに対する支援について
KIZUKIでは、特定の技法に固執することはしていません。
今回紹介した中では、ABAのうちPRTという方法や感覚統合療法の考え方などを取り入れた独自の「あそび」によるセラピーを実施しています。
それは、子どものことばやコミュニケーションの能力は教育的に教えるものではなく、自然な環境の中で「あそび」を通して育んでいくことが大切であり、最も効果的であると考えているからです。
一人ひとりの子どもをしっかり観察して、特定の技法にこだわることなく、柔軟でオーダーメイドな支援を行なっていきたいと思っています。
まずは自由あそびの場面を観察し、必要な検査と評価をもとに、その子だけのプログラムを作成していきます。
ASDと診断されているお子さまのセラピーについても、どうぞお気軽にご相談くださいね。
まとめ
- 自閉症スペクトラム(ASD)の子どもに対する支援方法は様々で統一されていない
- 子ども一人ひとりの個性に合わせた方法で、セラピープログラムを実施することが必要
- KIZUKIでは、一つの方法に固執することなく、「あそび」を中心とした柔軟でオーダーメイドなセラピーを行っている